2008年8月1日
「少年動物誌」河合雅雄
夏が好きなのは、夏の思い出がすべからくキラキラと輝いているからだ。
どんなつらいことも、やがては足の下の熱い砂や、眩しい陽光、
夕立ちや朝霧やアスファルトの照り返しなどに覆われていき、
時を経て、カラッとしたあま酸っぱい思い出に変化していく。
子ども時代の夏休みには、必ず信州か房総に連れていかれて滞在していた。
家がお店をやっていたからだろう。子供は邪魔だったのかもしれない。
母子たちが不在の間、男の大人たちは何をしていたのだろう。
仕事ばかりでなく、きっとちょっとばかり休んでもいたのだろう。
時はなにしろ昭和30年代である。
とにかく、毎年八月、町っ子の私の前に、にわかに自然っぽいものが近づいて、
吸い込まれるように慣れ親しんでいくのだった。
そんな夏休みの感情みたいなものも、何回でも蘇らせてくれる貴重な名作である。