2010年10月29日

「竜が最後に帰る場所」 恒川光太郎

恒川光太郎さんの最新刊(講談社刊)です。それぞれ要素が異なる5篇が収録されており、恒川ワールドの魅力がほどよく味わえます。

 

持ち前の和風ダークファンタジーの魅力が、ワールドワイドになってきて、パワー全開になってきました。いや、ちょっとカタカナの表現が多くなってしまいました。〈本六の…1冊〉を、久しぶりに書いているからでしょう。まずい、まじめに書かなきゃ。

 

収録されている1篇、中篇の「鸚鵡幻想曲」は、マルケスやタブッキのように、奇妙なバランスを保っています。そしてまた、古典的な王道も歩んでいます。

そもそも鸚鵡という異国的な禽獣は、魅力的な曲線のフォルムもさることながら、やはり鮮やかな色彩にその特徴をみるでしょう。まるで万華鏡のように、ぞっとしたり、はらはらしたり、くらくらしたりの色とりどりの祝祭みたいな小説です。収録されているすべての作品、描写が即、映像となり、読後は映画を観たような満足感をもたらしてくれます。

 

 ほかの短編「ゴロンド」は、そのタイトルで、すぐ「?」と思うのではないでしょうか。一目みて、「素敵な名前♡」と溜息をついたアキコさん、貴方は鋭い感性をしていますね。ちょっとばらすとこれはある幻獣のお話です。

主人公の彼がこの世に誕生する場面は、まるでNHKの「ダーウィンが来た!」みたいです。つまり、水底に設置した水中カメラのライブ映像を見ているかのようなのです。

 

まったく、見てきたような嘘を書くのが、最高の作家なんですね。世界を操っているのは自分、みたいな大嘘つき。みごとな構成はこれまで培ってきた自信の上に作られているのでしょう。

 

別の世界(カタカナでは{アナザーワールド}だね)のことを描いているようで、実は現実の(これは{リアル}かな)世界をも裏面に張り合わせていて、だから安心して読めるのです。私自身(読者)は「ここ」にいるのですが、実は第3の世界に生きているのではないか、と思ったりします。特に「迷走のオルネラ」という作品は非道、悪徳とは何かを問うような強烈なホラーです。

 

さて、「ゴロンド」では、彼がどんな生き物なのかは明かされないまま、話は少しずつ進行していきます。読者は同じ水の中に息を潜めように、彼の成長を見続けるしかないのです。

言葉一語一語を追って、じっと「待つ」ことの喜びを実感できるのです。これこそ、大人のためのファンタジーの醍醐味といえるのではないでしょうか!

 

既刊単行本とはうって変わった、きらきら光るカラフルな装丁です。でも、もしかすると、著者はこういうのが好きなのかもね、と思ったりします。

ともかく、ますます味わい深くなった恒川光太郎さんの短編集です。初期の受賞作品など翻訳して海外で刊行しても人気が出ると思うのですが、いかがでしょうかね。日本の幻想系現代小説として、ミステリー系の桐野夏生さん並みに海外に出て行ってほしいです。

 

 

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