2010年7月18日

「ラスト・チャイルド」 ジョン・ハート

長編小説を読もうかなと思ったのは、気力アップのためです。最近は「超訳ニーチェの言葉」くらいしかまともに読んでいないのです。
休み前に、本六の棚から「ミスティック・リバー」(デニス・ルヘイン)を抜き出してはいたのですが、文庫とはいえ全1冊で600ページ以上、今の私には持ち運ぶにもかなりの重量感が…。内容も濃い感じでイマイチ、のれません。
そこで携帯で書評をチェックし本屋さんで見て、「ラスト・チャイルド」(ジョン・ハート)を選びました。文庫で上・下2冊なので持ち運びにもまあまあです。早川書房創立65周年&ハヤカワ文庫40周年記念作品。

ということでさて、覚悟を決めて読み始めたら、「なんでこんなに辛い、悲惨な物語を読まなければならないの?よりによって」と思うことしきり。リハビリになんかならない〜。

ずっと以前に、桐野夏生さんの初期の長編「アウト」を読んだときは、面白くてたまらず新鮮な楽しみをもらえたのに。あれはかなり陰惨な話でしたよ。たぶん「ミスティック…」に近いかも。

そのうちに「怖い小説をなんでわざわざ人は必要とするのか」、などと考え始めたり…。
が、とうとうストップせず、止める理由も見つからないままに上・下巻を読み終えました。見事な構成力のおかげでもあります。

謎は簡単には解決せず、暗闇の中で悲惨さは増すばかり、でも、それでも諦めず、めげずに一歩一歩戦い続ける少年と刑事。ラストに近づくにつれ、ほのかに熱くなっていく鉄のような情感をもたらされていきました。ラストにはジワリときました。

先述の「なぜ?」の意味も、少しわかったような気がしました。
目を背けたいことを、人間はやってしまう怖い生き物なんだ。「罪と罰」の時代よりず〜っと昔から。
酷いことを実体験するなんてのはホント真っ平ゴメンです、が、酷いことは、実はそこここに勃発していて、日々の暮らしとは闇に浮んでいる孤島のようなのかも。
なんて思うのはMっぽいかな。でも今も戦争も行われてるわけで、理不尽な出来事は、毎日ニュースに流れているし。
ま、関係ないじゃん、と思っちゃえばいいんだけどね。それはそれとして、ともかく自分じゃない人のことを、居ながらにして小説では詳しく知ることができる。法的にでなく、やっつけることもできる。
戦いの日々を生きる、「ラスト・チャイルド」の登場人物たちの苦悩と葛藤に、゛ラスト゛までつきあえたことはよかったです。その上、戦いの後には゛悲惨だけじゃない゛というメッセージも送ってくれています。
アメリカ小説らしく、父性的テーマが自然に立ち上がってますが、偶然にも解説に「ミスティック・リバー」のことも触れられており、どちらも家族をテーマのひとつにしているとのことです。二人の作家さんは同い年だとか(1965年生れ)。アメリカのミステリー界の担い手なのですね。
とにかく「ラスト…」は、現代的な強いパワーを持っている極上の長編小説だと感服しました。

また、やはり少年が主人公の貴志祐介さんの小説「青の炎」を、チラッと思い浮かべたりもしました。自転車も出て来たりして。こちらも読み甲斐があります。そして、桐野さん、貴志さんたちはやはりメイドイン日本の小説家なんだなと、他国の小説を読むと感じます。

そういえば、村上春樹さんは最近のインタビュー(「考える人」掲載)で、近未来より近過去に興味があるというようなことを話していましたが、「ラスト・チャイルド」も、近過去への旅ともいえる物語でした。(もしかしたら、殆どのミステリー小説はそうかもしれない。詳しくないけど)面白かったです。

でも緊張感溢れるこうしたタイプ、リアルな物語はしばらくは敬遠したい。もう少し幻想的なやつを、次は…。

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