2010年5月20日

㊗!! 山本周五郎賞 「光媒の花」 道尾秀介

道尾秀介

 読み終わったその日が、山本周五郎賞の発表でした。受賞するに、まさにふさわしい小説です。30そこそこで、この筆力と説得力、ほんとうに力のある作家さんです。 (ちなみに昨日は道尾さんの誕生日だということです。)

 小説を暇つぶしのために読んでいる人は沢山いると思いますが、私にとって、小説はご飯みたいなものです。たいせつな主食です。ご飯にはまずいけど栄養になるご飯、ブランドのご飯もあるし、玄米ご飯、カレーライス、赤飯もあります。そんな中で、まっしろで美味しいご飯を探すのは手間暇がかかります。そういうご飯は、そうちょくちょく食べられるものではないのです。だから他のことで忙しい日々は、ご飯は我慢しています。ご飯に関しては美食家なんで。でも、ふらっと入った本屋で、出会えることもある。目が合うこともある。それがこの本でした。

 群像小説、連作なので読みやすいはず。やはり同じく、「山本」賞も受賞している伊坂幸太郎さんの「終末のフール」という連作も好きな小説ですが、非日常的な設定が施されていて、そこでイメージを限定される人もいるかもしれない。しかし、「光媒の花」は、ふつうの状況でのふつうではない日常が描かれているので、そっと読み進めてしまう、なにげない群像小説です。そして恐ろしく優しい視座を持っている。

 ミステリー分野で大活躍している道尾秀介さんですから、ここにもミステリー手法が施されています。がっしりとした土台の上に築かれているそれぞれの小さな世界は、村上春樹さんが描くような国際的にも通じるマジカルな世界とは異なる、日本独特の風土から生まれた世界です。

 最後の第六章は大サービス。そうだ、エンターテインメントはこうでなきゃな、と思いました。どこまでもちゃんとしているのです。テレビドラマ化されるのには、一番適しているでしょう。

 ああ、このご飯は美味しかった! 小説は、初めから最後まですべて読まないと、その作品がいったいどんなものなのか、(作家が)なんでこれを書かねばならなかったか、知ることはできません。学術書やハウツウ書など他の分野の本が、頑張ってもなかなか伝えられないものを伝えられる、唯一の散文が、小説という表現なのだと思います。それはおそらく、夏目漱石がタイトルにした「こころ」の領域です。だから小説は面白いのだなと、改めて思いました。また、この道尾さんはじめ、大ファンである恒川光太郎さんや伊坂幸太郎さんなど、70年代始め生まれの作家さんたちが、いい作品をどんどん書いていることに、とても希望が見えるように思いました。

 

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