2009年11月1日

「カムイ伝講義」 田中優子

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高校生の頃、歴史が苦手になったのは、年号を覚えなくてはならなかったからでした。試験では必ず記入しなくてはならないからね。現在から遠い過去の年月を、丸暗記しなけれぱならない、という“不自由”さに負けて、これまできてしまったのですが、それでいいわけありません。時代小説などを読めばと思うのですが、今と変わらない人情が前面に出ていたりするとそちらがメインになりもうダメで、時間の推移感覚もさっと消えてしまったりしてしまいます。つまりストーリーに幻惑されてしまうので困ります。そんなことで、ついつい、民俗学の本の方に惹かれてしまうのですね。
さて、そんな私にぴったりな歴史読本こそ、この「講義」です。田中優子さんの語り口には、「江戸の想像力」からはまっています。わかりやすいし、もちろん、年号を暗記しなくてもいいですし。評論というより、物語のようにすんなり入ってきます。「・・・近世はいくつかの現象については、地球規模で見なくてはその理由が明確にはならないのだ。」(本文より)ふむふむ、そうなのか。
「はじめに」にも記されていますが、白土三平の劇画「カムイ伝」にまつわるものでなく、その背後にまつわる多岐にわたっている講義、血の通った面白い教養書ともいえましょう。「カムイ伝」では、人間を「いきもの」としてとらえて描いている、という指摘にハッとして、いつか全巻通して、読んでみたくなりました。

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