2008年11月11日

「わたしを離さないで」カズオ・イシグロ

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幼いときに、小さな「箱」を持っていた人は多いのではないだろうか。私も持っていた。本の形で、背が革張りだった。父親からもらったのだ。
表紙を開くと、中はひとまわり小さな空洞になっていて、中学時代は友達からの手紙などを入れていたが、いつの間にか何処かにいってしまった。
「ヤッホーッ♪」と久しぶりににっこりできた素敵な映画「落下の王国」に登場する女の子も、骨折した片手をギプスで固めているにも係わらず小箱をいつも抱えていた。その中には、とんでもなくワイドな世界が存在しているのだった。
カズオ・イシグロの「わたしを…」の語り手も、子ども時代に特別な小箱を持っていた。おそらくこの長編小説は、「大切なもの」について書かれた物語なのだろう。
15頁位から不穏な空気を察知して、読むのを止めたかったのだが、友人からのお薦めで送ってきてくれた本なので、頑張って一日半で読了した。早川文庫のガイドでは文芸の部門に入っていたが、SF文芸大作とでも言おうか。本能に、重く強く響いた小説だった。
 その後に、「落下の…」を見られて良かったなぁ。
小箱にもいろいろあるものだ。


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