WS 「宇宙の缶詰」 作りに参加して。(中野昭子) -

「赤瀬川原平の芸術原論展」千葉市美術館

 

宇宙の缶詰

先日、千葉市美術館では企画展「赤瀬川原平の芸術言論展」に関連して、ワークショップ「多元宇宙の缶詰」が開催された。こちらは赤瀬川氏の作品《宇宙の缶詰》をもとに、自分だけの《宇宙の缶詰》をつくるという試みである。アーティストの奥村雄樹をインストラクターに、哲学者の永井均をゲストに迎えて宇宙を梱包するという不思議な試みに惹かれた私は、早速参加してきた。

 

この缶詰は、壮大な名前とは裏腹に、そのへんで売っている缶詰のレッテルを内側に張り替えただけのシロモノである。なぜ《宇宙の缶詰》なのかと言えば、外側にレッテルが張られた以上、「この私たちのいる宇宙が全部缶詰の内側になる」[1]から、という理屈なのだ。

 

内と外は容易に逆転しうるもので、それを隔てるのはレッテルという曖昧なものでしかないという発想は、新鮮であると共に怖い。内側で守られていたつもりが外に放り出されたり、外側で眺めていたはずが逆に観察対象になりうる、ということだからだ。

 

ちなみに2015年の今、《宇宙の缶詰》をつくろうとすると、紙ラベルの缶詰が少ないという困難に直面する。スーパーや百貨店で缶詰を探しても、缶にラベルが直接印刷されているものがほとんどなのだ。これは現代において、ものごとの内外の境界線が曖昧になりつつあるという警告ではあるまいか。

 

一方でこの作品は、そんな大層なことを訴えているとも思えない外観である。
が、自分のつくった《宇宙の缶詰》を見つめていたら、ただの缶詰として見るな、と言われている気がした。
つまり赤瀬川氏のように、繰り返される日常の中で、面白いものを発見する視座を持ち続けよ、と。   (中野昭子 ライター)

 

[1]赤瀬川原平「東京ミキサー計画」(筑摩書房、1994年)p.219

 

 

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