「印象派の水辺」 (南 弓) -

「放つ輝き 印象派の水辺」

 

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印象派の画家たちは水辺の風景を好んだ。彼らが何よりも本領を発揮したのは、川や池、海、その水面に映る空や雲や木々などの描写。本来は捉(とら)えがたく移ろいやすい空気や水の揺らぎをカンヴァスにとどめた。その水面の描写こそが印象派の最も革新的な要素だと言ってもいい。この本で赤瀬川さんは、モネ、ルノワール、ピサロ、シスレーらの水辺の風景画を通して、美術史家や評論家とは違った角度から印象派の魅力を解き明かしてくれる。

 

 

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赤瀬川さんが注目するのは印象派画家たちの“筆触(タッチ)”― 絵筆の跡だ。印象派以前の時代には、筆触は「あってはならないもの」であり、「絵画の主題に従属するもの」だった。でも印象派画家たちはそんな掟を破り、画面にはっきりと筆触があらわれる絵を描き始めた。描きたいものを自分の技法で描くという自由を手に入れようとしたのだ。彼らの絵から水面の部分だけを切り取って並べたページは圧巻だ。その生き生きとした筆触から、描くことの喜びが伝わってくる。

 

 

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別冊「太陽」赤瀬川原平の印象派探検」1996 平凡社

 

 

赤瀬川さんは彼らの筆触に「自由の嬉しさを感じる」と言う。それに対し、印象派以降の抽象絵画はさらなる自由を得たはずなのに、なぜか自由の嬉しさが感じら れない、とも。「自由というのは与えられると消えてしまう。印象派の絵の筆触には、みずから自由をつかもうとする力が放つ輝きがある」という指摘には頷ける。印象派の人気が不滅なのは、その輝きこそが時代を越えて人々を惹きつけるからではないだろうか。絵筆の感触を知っている赤瀬川さんの言葉には、表現者としての実感がこもっていて説得力がある。これほど印象派の本質をずばりと簡潔に語った本はないと思う。     (みなみ ゆみ 翻訳者)

 

 

 

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「印象派の水辺」(講談社刊 1998/新装版2014)
「別冊 太陽」(平凡社 1996刊)

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