「 カイユボットの庭で 」 -

 

 

印象派

この夏、パリ近郊の町イエールに、印象派の画家ギュスターヴ・カイユボット展を見に行った。会場は、かつてカイユボット家の別荘だった場所。広々とした庭園にイタリア風の白亜の館やスイス風の山荘などが点在し、池があり、敷地沿いに川が流れ、現在は公園として町民の憩いの場になっている。

1870年代に描かれたカイユボットの初期作品の多くは、この別荘と周辺の風景をモチーフにしている。今回の展覧会は、それらの作品を美術館や個人の所有者から借り出して展示。一世紀以上の時を経て、彼の絵は里帰りしたわけだ。花や木々の緑に彩られた庭園と館、水辺の風景、カヌーや釣りをする人々などの一連の絵を見ると、この美しい自然に恵まれた土地から、若き日のカイユボットがどれだけ豊かな着想を得たかがよくわかる。

1875年頃の油彩「イエール、池 睡蓮」は、淡いオレンジ色の睡蓮のつぼみが水から顔を出し、木々の影を映す暗緑色の水面が画面のほぼ全体を占める、当時としては大胆な構図と筆致。クロード・モネが1900年代初めに着手した睡蓮の連作を先取りしているようで興味深い(ガーデニングの趣味を分かち合い、カイユボットと親しかったモネは、この絵をたぶん見たはずだ)。雨滴が川面に落ちて、大小いくつもの輪を描いている「イエール川、雨の効果」も斬新で独創的だ。彼にとってイエールは、伝統的絵画の型を破って新しい表現方法を模索する実験の場、印象派としての出発点だったのだろう。
絵が展示された館を出て庭園を散策すると、絵の中の風景が今もほぼ変わらずに残されているので、うれしくなった。十数年前から町が建物の修復や景観の保存に努めているおかげだ。片隅にある菜園もカイユボットがよく描いた場所で、今は地元のボランティアが野菜やハーブ、花を育てている。レタスにカボチャ、ぶどう、ラベンダーや色鮮やかなグラジオラスが夏の光を浴びていた。    (みなみ ゆみ 翻訳者)

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