「下り坂」のすごいたのしみ  hotcake-126

2017年11月15日

 

山吹2017_0919_155948-IMG_7100

                            ・・・・14か月ぶりの更新です。ちょっと長め。・・・

 

 

近代日本文學に興味がある私は、20代のころから、なにか読みたくて迷った時はこの系統の本を手に取ってきました。

近代文學の作家は既にお亡くなりになっていますので、いつ読んでもOK、遜色はないのです。時代ごとに発見され、重ねられていくのです。

実作品の他、批評や評伝なども好きです。もっといえば近代小説や美術などをテーマに含んでおり、かつ「読み物」として、面白くスリリングなエッセイ&批評の本。贅沢です。

私にとってそんな本の定番の書き手・著者は、全て男性で年上です(しぶいおじさんが昔から好きなのですね)

彼らの新刊を読んで、時期を置いてまた読んで…、を繰り返していました。

若かった私に、著者たちは、奇妙なこと、不思議なこと、ばかばかしい事実、怪物や妖怪、ヨーロッパの昔話、明治の風景、文学について、いろいろと教えてくれました。そして、近年、その著者たちは、すでに一人、二人と亡くなられています。寂しいです。

さて、その中で一番の若手は、池内紀さんです。池内さんの著作には、カフカやゲーテ関連書より、文学関連のエッセイで出会いました。池内紀さんもすでに70代。

池内さんの新刊「すごいトシヨリBOOK」(毎日新聞出版)によると、池内さんは「七十七にはもういない」と考えられていたそうです。そして今年、その年になられたとか。

ということは、長年読んできた私も、若くないわけです。

 

「あなたの好きな池内さんの新刊が出ているよ」、と、新聞の切り抜きを友達が送ってきてくれました。

手術後、リハビリ含めて4か月入院、退院後も身体に見合う環境整備に終始していて、一日が終わるころには疲れ果て、とても本を読む気にならなかった私ですが、この本には惹かれました。

ネットで時々取り寄せている積読(つんどく)本は小説や人文が多いのですが、この本はエッセイです。エッセイの方が私は気軽に読めます。

 

さて、本を手に入れるまでの経緯。

2本杖を頼りに、やっとのことでゆっくりしか歩けないので、外出には同行者が必要。もちろん本屋さんに自ら出向くことはできません。(展覧会等へ足を運べないのもすごくつまらない)

でも先日、この本を買うために、頑張ってみました。通院中の医院の前に本屋さんがあったからです。

付き添いの従姉妹に見守られつつ、自動ドアから入店、カウンターまで歩いて行き、四つ折りにして持ってきた「すごいトシヨリBOOK」の記事の切り抜きをバッグからおもむろに取り出し、店員さんに在庫の有無を訊ねたのでした。小さな本屋さんですから、ないかな、と半信半疑でした。

定員さんは店内あちこち移動して探してくれていましたが、やがて奥に入って行き、この一冊を見つけ出してきてくれました。

ありがたいので、最近チェックし、記憶しておいた欲しい本2冊の取り寄せも頼みました。次回の通院時までに入荷していることでしょう。

こうして無事、手に入れられてよかったです。アマゾンで送られてくるより、気分がいいのはなぜでしょうか。

 

「すごいトシヨリBOOK」はエッセイであり、ハウツウ書でもあり、役立つことがたくさん書かれてあります。

読みはじめに、いつもの池内さんの文章と感じが違うかな、と思ったのは、語りおろしだったからです。

池内さんは、ある日思い立って日々の暮らしの中で気づいたことをノートや紙片にメモしてきたそうで、それを中心に、編集者さんたちが取材をし、まとめあげたということです。

池内さんはドイツ文学者だからか(?)、ご意見は、どれも綿密でシンプルでぶれない。無駄も無駄にしないで必ずや得策にする。体験的生活技術が満載です。

 

池内さんは、あとがきにこう書いています。

 

・・たぶんほんとうのすごいトシヨリは、わざわざそれを語る気分もヤマっけも、もはや持ち合わせないのではあるまいか。精神論的にすごいトシヨリであれば、日ごとに出会う老いのしるしを、もっとちがったふうに見ようとするような気がする。齢の点でも精神的にも、いまひとつ未熟であるからこそ、容赦なく襲ってくる老化現象を、おもしろがることができる。

 

えーと、この辺りに近代日本文學でなく、現代文学的なものを感じてしまうのです。

 

年をとるとはどういうことか、というと、それは実際、そうならなくてはわからない。リアル老化しかない。

体験してしか、知ることはできません。未知との遭遇です。

私の場合、自分の体を思うように動かせなくなり、痛みも出てきますが、その主たる原因は、加齢、すなわち老化ゆえでしょう。

その時期が自分の予想より少し早かったのは、仕事の影響があると思います。

本屋やギャラリーは、沢山の本、額付きの絵画を運び陳列し、店番し、お客さんと立ち話をし、次回の企画の準備と宣伝をし、取扱い作家さんとも付き合い…で、やろうと思えば仕事はいくらでもある。増える、思いついてしまう…。この繰り返しにピリオドを付けられたのは不調のおかげです。

アルバイトさんからタカハシさんは店にいる間、座らないでずっと動いてる、と言われました。

若い時から一人で単独でやる仕事についていたので、同じようにお店も運営してしまったものだから、確かにやり過ぎはあったと思います。

で、こうなってしまい、これからどうしようかなと考えている最中の私には、この「すごいトシヨリBOOK」は、さまざまなヒント、助言が並べられているお助け本でした。

 

内容は多岐にわたっています。老いての生活スタイル、趣味、ファッション、自立、医者、病とお金、死・・もろもろの中に光があります。

折り返し地点を過ぎ、「下り坂」も目前の私。尊敬する先輩からの提言、素直に信じておおいに参考にしたいです。

池内さんも述べています。

「まっしぐらに走ってきて、今は疲れを感じている人。がむしゃらに働いてきて、今はともかく、まわりに何が起ころうとも、ひと休みして、よく考えてみたい人、そういう人の目にふれて、なにかのヒントになれば」と。

 

この本に会えてよかったな。

 

ところで、池内さんは取材がてら、本六にも来店されたことがあります。すごい2017_1115_222122-IMG_7320

7、8年くらい前でしょうか。ちょっとだけお話もしました。本も1冊買ってくださいました。

しかしながら、外国文学の棚から引き出されたその本がなんの本だったのか。

ニューヨーカーに関する本だったように思うのだけど…。

すっかり忘れたダメな店主です。

それは池内さんが予想以上に素敵な方で、見とれてしまっていたからですね。

この本に書かれているように、ご自分で決めているおしゃれなスタイルだったことは覚えています。

軽めのリュックを背負い、ジャンバーを着ておられた。あれって、やはりL.L.Beanだったのかな。

風のように軽やかな方でした。

 

 

 

 

 

 

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