保坂和志さんの「猫の散歩道」  {ホットケーキ29個目}   

2011年3月16日

猫の散歩 

 

まだ、津波が来てなかったある日、高架を走る電車からぼんやりと窓の景色を眺めていたら、青いトタン屋根の上で気持ちよさそうに眠っている猫が見えました。あッ、と思ったらもう後方へ消えてしまったけれど、白地に薄茶色の猫 一匹。なかなかお目にかかれない、絶滅危惧の[プチ昭和]です。

やはり、津波が来る前、猫好き作家、保坂和志さんから、エッセイ集を出されたというお知らせメールが届きました。添付されていたのが上の画像です。本を紹介しているのが猫なのは、タイトルが「猫の散歩道」だからでしょう。もうこれは、読まないわけにはいきませんね !

 

保坂さんの小説は「猫に時間の流れる」などもちろん好きですが、印象が強いのは「季節の記憶」です。そして、この「猫の散歩道」も、季節の記憶がいっぱいです。

亡くなられたお父様が、保坂さんの連載エッセイ「プロムナード」を読むために、毎日鎌倉駅まで自転車で日経新聞を買いに行かれたというエピソードが「あとがき」にあります。それもまたたいせつな季節の記憶です。

最近、読書がどうも面倒になってしまったな、というやっかいな人もこれなら大丈夫、安心です。装丁も、村上廉成さんの絵もグッド。

かつて保坂さんのエッセイ「途方に暮れて、人生論」にとても助けられたことがありました。きっと途方に暮れていたのですね。今回の「猫の散歩道」にも、若い人に読んでもらいたい文章がありました。それは82ページ。最後の少しだけ引用しておきます。

「すべての芸術は果てがない。芸術は決して霞や幻でなく、現実を最終的な地点で支えている。反面、お金こそが人生と無縁のところで動いているように見える。」

これは納得の言葉です。

 保坂さんのHPは http://www.k-hosaka.com/

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ここからは余談ですが、保坂さんは「・・・三島も太宰も好きになったことがない」と書いています。(どうしてかは本書にあたってください)。でも漱石は「まとめて」読んでいるのですね。漱石はぜったい猫が好きだったと思います。大作「吾輩は猫である」は、ひなが一日、家にいて、猫を眺める幸せな時間を持っている人しか書けません。朝日新聞社の「社員」だった漱石は連載小説を書きつつ、6人もの子どもさんを養い、おまけに毎日、客人の訪問を受けているのですから、けっこう忙しかったのだろうと想像はするのですが。(保坂さんも家猫と外猫の世話で忙しいらしい。)

さて、三島も太宰も自死を選びましたが、漱石は若くして(47歳)病死でした。(無念でしたでしょう) 太宰も三島もかなりアーティスティックな作家です。が、たとえば漱石の弟子の内田百閒もストイックな尾崎翠も信仰の宮沢賢治、天才樋口一葉、ファンタな泉鏡花、供物の中井英夫、ギタリストの深沢一郎も(敬称略)たちも、かなーり芸術的な作家たちですが、みんな自死なんかは選ばなかったです。

 

今回の死者、そして行方不明者は1万人を超えています。芸術家なら、死なないで、書けなくなるまで、書き続けるのがいいですね。じゃなかったら、詩人をやめたランボーみたいな死に方をどうぞ。

 

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今夜は冷えそうです。被災された方が暖かくいられますように! ガソリンが一時間でも早く、着きますように。

ちなみに私ら都民は、復興はこの先も長く続くのですから、焦らずにじっくりと後方支援の方法を、腰を据えて試みるのがいいようです。

 

 

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