[団子坂の図書館]  文京ゆかりの作家と風景 3 -

 

 

早く働きたかった私だが、短大卒業後、これでは社会で通用しないなと考え、編集者養成の専門学校に進むことにした。

ちょうど実家の住み替えと重なり、通学に便利な都内で一人住まいをすることとなった。

赤門不動産さんで見つけた下宿は千駄木、団子坂下の路地の家。今から思えば、まさに東京の下町の家の見本のようだった。

下宿のご主人は籠を作る職人さんで自宅が仕事場。大柄の奥さんはいつも割烹着姿だった。

住人たちの靴がきちんと収められた靴箱のある玄関、左手の階段を上った廊下片側に、小さな台所付きの六畳間が三部屋並んでいた。

店子は私と日本橋三越の社員と上智大学の男子学生だった。私の部屋の前は大家さんの娘さんの部屋で、時々遊びに寄らせてもらったりもした。

遠く離れてしまった大学時代の友達はあまり訪ねて来られなかったけれど、専門学校のクラスメイトはよく遊びに来た。

電話もなくお風呂もなかったが面倒とは思いもせず、…どっぷりと昭和時代である。

 

そんなわけで二十歳そこそこの私は、団子坂の区立鴎外記念本郷図書館を時々訪れていた。文学少女ではなく漫画少女の私に、谷口吉郎設計の柔らかい光が入る図書室は、クールでシブく、由緒ある文学の香りを知らしめてくれたような気もします。

ちなみにその後、社会人になった私が大変お世話になったのは区立水道端図書館である。

こちらは印刷所・製本所・書籍取次店など、本の制作現場の真っただ中の、なんというか市民的な図書館でしたが、現在はどうだろう。(「ハヤカワ文庫全点揃い!」というのが素晴らしい!)

 

さて、本六を開設した2006年、台湾からの留学生で東大院生だった黄姍姍さんがある日突然、来廊された。

流暢な日本語による企画の持ち込みで、実現したのが夏愛華さんの「阿修羅と少女」展(07)である。

黄さんは、東京ワンダーサイト本郷の公募企画に応募、みごと入賞した企画が『華・非・華』 呉詠潔+森本太郎展(07)である。

そこで初めて森本太郎さんの作品を拝見し、本六のグループ展「AUTUMN SONGS」(本六‘09)に出品いただいた。

多様なイメージを集約させる美しい表現、そして思索的な画風である。

 

2012年11月、かつて通った鴎外記念本郷図書館は、現代的な建築の文京区立森鴎外記念館へと変貌を遂げた(註1)。

本年(2014)9月から、森本太郎さんと作間敏宏さんの展示が開かれている(註2)。森本さんは自らの個展で鴎外の「雁」をテーマにした作品を制作されたことがあるという。(文京区民でもある)

個々人の志が育っていき、地域で繋がっていくことに改めて気づく。ずいぶん昔の団子坂の話から始めたが、どれもこれもが懐かしく、そして今日もまた、真新しい記憶が紡がれていく。                                                             (「本6通信」編集人)

 

註1 観潮楼~鴎外記念館への変遷
明治25~大正11年 森鴎外居住「観潮楼」⇒ 昭和12年失火 ⇒ 昭和20年戦災ですべて焼失 ⇒昭和25年 記念公園(児童公園) ⇒昭和37年(生誕100年)文京区立鴎外記念本郷図書館 ⇒平成18年 本郷図書館鴎外記念室 ⇒平成21年 文京区立森鴎外記念館
註2 「森鴎外記念館で現代アート!vol.2生命の連鎖・イメージの連鎖」ディレクション倉林靖氏‘14年 9/13~11/24 エントランス・カフェ等で開催

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